
空前絶後。浩瀚1102ページ! 平野啓一郎激賛。
「決定版 三島由紀夫全集 第42巻 年譜・書誌」(新潮社)未収録の参考文献目録2.8万件を中心に、没後に重きを置いた詳細な年譜、海外での受容の広まりを示す翻訳作品目録2,200件、「決定版」刊行以後約20年分の補遺、未収録作品、新発見の書簡など750件、計3万件超の過去類例を見ない規模の文献・資料を集成した決定版であり、以後、このような試みはなされないだろう。
秋山駿が「死後も成長する作家」と評したように、没後も三島全集が二回刊行され、書誌も二冊(主なものだけ)編まれた。ところがその後も新発見の処女作や未発表作品、そして夥しい評伝、研究所がでた。海外での翻訳もつぎつぎと、芝居もドイツなど世界中で上演され、映画も数え切れないほど制作された。
海外で翻訳され、映画がつくられたりすると逆輸入されて、また日本国内でも話題になる。
死後も三島作品はロングセラーを続けている。新潮文庫だけでも毎年数十万冊が増刷されている。
これらをすべてまとめた。
じつにたいへんな作業、気が遠くなるような資料集め、いやその研究者としての執念には脱帽する以外ない。
例えば『愛の乾き』である。
英語、独仏伊は当然だろうが中国語版が数種、ルーマニア語、セルビア語、ロシア、スペイン、ポルトガルに加えてアラビア語まであるのだ。ここまで書いて、思い出したことがある。『愛の乾き』の英語版訳者はアルフレッド・マークス。じつは1972年に京都で開催された国際ペン大会で評者(宮崎)と知り合って、そのまま四日市の森田治(必勝の実兄)のところへ案内し、一緒に帰京して六本木の国際文化会館(三島が結婚披露宴をしたところでもある)に旅装を解いた、いろいろと話し合った挙げ句、氏の日本文学論を翻訳して『浪漫』に掲載したことがあった。
また三島を適格に批評し、評伝や文学論を書いた林房雄、奥野健男、佐伯昇一、村松剛、松本徹、西尾幹二らはもれなく網羅され、楯の会会員で追想記を書いた篠原裕、村田春樹らもリストになる。三島研究会では玉川博己、浅野正美、佐々木俊夫、山本之聞、菅谷誠一郎、鈴木秀寿、田村誠ら。
『命売ります』などの通俗小説が韓国、伊太利亜、露西亜ばかりかルーマニア、ハンガリー語にも翻訳されている。これは映画にもなり、この三年ほどで筑摩文庫が50万部のベストセラーとなる不思議な現象も起きた。『音楽』『永すぎた春』なども翻訳があるが、『複雑な彼』はない。
翻訳書誌を一覧して気がついたことは、イタリアと中国の特異性である。
『行動学入門』、『葉隠』、『文化防衛論』、『憂国』、『若きサムライたちのための精神講話』等の思想的なものを真っ先に翻訳したのもイタリアだが、『豊饒の海』四部作もイタリアが一番乗り。
またあれほど三島を批判した中国が、ほぼすべての主要作品を翻訳して(『蘭陵王』は中国と韓国語だけ)。中国人の若い世代が意外に三島を読んでいることだ。
「情念は枯れ、西鶴も芭蕉もいない昭和元禄」なら現代日本は「精神の曠野、三島もいない令和元禄」か。
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