辛口コラム

書評その107
いま夥しい中国富裕層が日本に逃避してきた
歴史上、何度も日本が中国人の亡命先に撰ばれたのだ

近藤大介 著 『ほんとうの中国』講談社現代新書

『ほんとうの中国』

 日中関係は「一衣帯水」ではない。「一衣帯血」である。
 中国人と日本人は性格も発想も百八十度ことなる。中国人は団結しない。だからチームワークが出来ない、野球は弱い。団体競技より個人プレーである。11人のサッカーも15人チームのラグビーも弱いが卓球、水泳など個人競技は強いのである。
 評者(宮崎)も著作を通じて、たびたび指摘してきたが、中国将棋は捕虜駒がない。皆殺しだからだ。「光」には皆殺し、という意味がある。「陽」は人を騙すという意味がある
 そしてアメリカと似ているのはWINNER TAKES ALL(勝者総取り)であって、負けたのが悪いのである。水に落ちた犬を討て、の世界だ。
 日本には判官贔屓、高貴なる敗北という美意識があって負けてしまっても称賛される英雄があるが、中国では負け組は浮かばれない。
 刹那的快楽主義、酒池肉林、世俗信仰の無神論が多いから「あの世」はない。愛国って何のこっちゃ。ましてや愛社精神?
 愛国心が強いというのは自己表現の誇示であって本音はどうでも 良いことだが、著者の近藤氏は町内会の団結も希薄で、自治体の運動会もないから、すぐ上に所属するのが国家という構造になる。だから愛国心だけは強いと観察する。
 日本は部署がかわると取引先に交代の挨拶に行くが、中国人はそういうビジネス習慣はない。
人脈は自分が築いた貴重なネットワークであって、それを後輩に紹介することはない。
 こうした中国人の常識は日本人には非常識。ところが宿命の隣人だから、うまく付き合っていかなければならない。嗚呼、しんどいなぁ。
 そのうえで現代の変化とは「一人っ子政策」の弊害である。我儘な新世代、スマホしか知らない中国人が誕生した。「四二一世代」ともいう。四人の祖父母、ふたりの両親がひとりの子供をそだてる。そして、猫も杓子も大學へ行く。
「華業即失業』というのは卒業は失業という意味である。
 『安定した公務員』になりたいという人生観がうまれ、2024年の公務員試験は募集4万に対して、なんと325万人が列をつくった!
 驚きの数字は中国人の自殺率が日本より多くなったことである。羞恥心のない中国人は自殺しないと評者らの世代は観察してきたが、一人っ子のメンタリティは日本人より脆弱となったのか。

 かくして中国人は試験がらくちんで(カンニングもたやすい)、性善説の、御しやすく就職戦争のない日本にやってくる。これが「潤日」現象だ。(本書239p)
 まさに「日本人が中国へ行くと容易に疲れ、中国人が日本へ行くと力が余る」(26p)。
 このような「地上の楽園」である日本へ逃避するブームはすでに紀元前、徐福の時からなのである。
秦始皇帝が「不老不死の薬」があると聞いて徐福を日本に派遣した伝説がある。じつは徐福の船団は2000名規模で集団の日本亡命だったとも考えられており、各地に「徐福上陸地点」が存在している。
 五世紀には政治混乱と絶望の中国から富裕層が日本へ大量に逃げた。
 おなじく五世紀後半から六世紀にかけて隋王朝から唐王朝の過渡期に大量の中国人が日本へ逃げた。かれらは難波に上陸して独自の集落を形成した。鍛治、陶芸、造船、建築などのエンジニアが多く、これらの職能集団に着目し、政治的にかれらを束ねたのが蘇我氏だった。
 評者は、この文脈から鑑真の来日は、じつは亡命だと考えてきたが(拙著『禁断の国史』、ハート出版他を参照)、本書でも近藤氏は同じ方のようだ。
 唐代仏教専門家の中国人女性とたまたま唐招提寺で一緒になった近藤氏は、彼女から意外な鑑真亡命の『別の解釈』を知ったという。
 それは鑑真もまた、不老不死の薬を求めて日本に来たという。なぜなら鑑真は唐代仏教界のスーパースターであったばかりか、薬草博士でもあったからだ。(148p)
 平明で比喩が豊富で、まことに有益な一冊である。

waku

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