辛口コラム

書評その44
司馬遷の正統史観が濃厚な中国は虐殺を「解放」と書く
モンゴルは事実上、中国の「植民地」ではないのか


楊海英 著
『植民地としてのモンゴル』

(勉誠出版)

『植民地としてのモンゴル』

 チベットと新彊ウィグル自治区において中国は大量虐殺をやってのけ、両地域にまたがり二百万人前後が殺害された。空前のジェノサイドである。
ついで「民族浄化」(エスニック・クレンジング)作戦を展開し、多くの女性をレイプし、漢族の子を産ませ、チベットとウィグル族を絶滅せんとしている。
 これらのことは世界が知っている。欧米へ逃れたチベット人、ウィグル人が世界世論に訴え、米国大統領はダライラマ猊下ともラディア・カディール女史とも会った。ハリウッド映画は、中国を糾弾する作品をたくさん造った。
 日本でも知っている人は知っている。大新聞が伝えないだけである。『中国に不都合なことを報道するのは、日中友好に反する』と卑下した左翼ジャーナリストがまだうじゃうじゃ日本にいるからだ。学者も作家も高橋和己のような手合いが夥しい。

 ならばモンゴルは?
 じつはモンゴルの悲劇は殆ど知られていないのだ。
 南モンゴルを侵略した中国は、まず漢族を大量に入植させ、人口比を逆転させた。モンゴル独立派ばかりか、革命後、共産党に協力したリーダー等も文革中に粛清した。
 「(文革中だけでも)34万人が逮捕され、27900人が殺害され、12万人に身体障害が残ったという惨状」となった。ただし、この数字は中国共産党の調査結果の内部資料であり、ごく控えめな数字で、専門学者のなかには30万人が殺されているとする。
 あげくに中国共産党は、南モンゴルを『中国内蒙古自治区』などと呼称し、ついでに革命政府に協力的だったウランフも用済みとなるや、失脚させた。
 こうした殺戮を『解放』と言ってのけ、傲然と傀儡自治を実行させつつ、モンゴル語の使用を禁止し、学校で北京語を強要した。これは文化絶滅が狙いである。
 他方でモンゴル人から伝統的な牧畜を取り上げ、モンゴルの遊牧民を都会部へ移住させたため、土地は激しい勢いで砂漠化した。
 つまり資源をあらかた盗掘し、原住民を奴隷としてこきつかう、まさに中国の「植民地」である。  このようなモンゴルの悲劇を、じつに淡々と歴史家の楊海英教授は叙した。  著者はじつに正直に書いている。モンゴル人なのに北京語教育を受け、改竄された歴史を教わってきたため、日本に留学に来るまで蒙古伝統文化と独特の歴史への理解がなかったのだ、と。
 恐るべきことがモンゴルでも行われていたのだ。あたかもトンパ文字が絶滅し、これを解読できる学者は大英博物館と日本にしかいないように。満州語を読み書きできる満族がほぼ存在せず、日本などの学者に学び直しているように。
 楊教授は「中国によって剥奪され、否定されていた『モンゴル独自の歴史』を私はなんと外国の日本で発見したのである」

 ソ連崩壊後、ロシア人支配からようやく事実上の独立路線を歩み始めたモンゴル(ウランバートルが首都のモンゴルのこと)は、資源を買ってくれる中国に対してアンビバレンツな感情を抱いている。同胞を殺戮したにくき敵である。しかし、いまのこころ、石炭や鉱物資源を大量に買ってくれる大事な顧客である。
 若者等は「中国人とみたらぶん殴りたい」と怒りを充満させているのだが、ウランバードルを傲然とうろつく、生意気な中国人が多い。だから漢族と間違われないように、日本人は日の丸のバッジをつけて歩いている。
 いずれ中国が大混乱に陥って分裂状態になったとき、モンゴルは反乱の旗を揚げるだろうが、そのとき、露西亜と米国がどうでるかで、明日の運命が決まるというのは評者の感想である。

waku

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