辛口コラム

書評その76
書かれなかった「歴史の真実」は、山のようにある
なぜかくも歴史家の目が節穴だらけになってしまったのか

著・渡辺惣樹 『第二次世界大戦とは何だったのか』(PHP研究所)

第二次世界大戦とは何だったのか

 縦軸は歴史の流れ、横軸は様々な事件の側面。これまで歴史家やメディアによって無視されてきたか、あるいは意図的に別の断面が強調され、真実は隠されてきた。本書の面白さは、この横軸にあって、長い間、埋もれてきた歴史に闇に光を充てた点にある。
 「えっ」と驚くような別の顔が浮かび上がってくるのである。
 デビュー以来、固定読者がついた渡辺氏の本書は、さっそくアマゾン外交部門でベストセラー1位となっている。
 渡辺氏の近作はチャーチルだが、これを読んで腰を抜かした人が多い。戦後「英雄」として語られたチャーチルが、悪質な陰謀家だったこと、母親がインモラルな不倫を繰り返していたこと、原爆投下を事前に知っていたことなど、戦後四分の三世紀も閲してから、真実が発掘されたのだ。この作業は遺蹟の発掘と似ているかもしれない。
 近年、多くの『歴史家』によって、従来の出鱈目な歴史が大きく修正されてきた。たとえば「南京大虐殺」なるものがなかったことは東中野修道氏らの地道な研究によって120%証明された。ノモンハンは小松崎師団長がソ連のスパイだったこと、日本軍の負け戦ではなかったこと。安重根の銃撃は伊藤博文の致命傷にはならなかったこと、張作霖爆殺の真犯人はソ連であり、河本大作ではなかったこと等も加藤康男、福井義高氏らが立証した。
 渡辺氏はスペイン内戦の義勇兵が共産主義者(典型がピカソ)だったことを最初に例証し、また支那事変の裏にソ連の工作があったことを近代史研究家や歴史学者がなぜ書かないのかと疑問を呈する。
 なにしろ英文資料を黙々と読んできた30年、その成果が集約された。
 本書ではいくつもの語られてこなかったエピソードがあるが、評者(宮崎)も知らなかった事実の一例は真珠湾攻撃の一週間前にハワイの二つの新聞が、日本軍の奇襲を予測していたことだ。本書では写真入りで紹介されている。
 1941年11月30日の『ヒロ・トリビューン・ヘラルド』は一面トップに[JAPAN MAY STRIKE OVER WEEKEND](週末に日本の攻撃がありそう)。
 同日付けの『ホノルル・アドバタイザー』は、同じ見出しを別枠として、KURUSU BLUNTLY WARNED NATION READY FOR BATTLE(来栖大使、「戦いの準備」は出来ていると警告)
 こんな報道をハワイの現地紙が一週間も前にしていた事実は、なぜこれまで書かれなかったのだろう?
 おりからロシアのウクライナ侵攻が開始され、西側のテレビと新聞は、いつものように「不都合な真実」を伝えないか、或いは逆方向にねじ曲げて報じている。
戦後、ユダヤ系が主流の西側のメディアによってヒトラーは悪人、それも狂気の極悪人として裁かれたが、ならばヒトラーに従属し、侵略の手先となった人々は「騙された被害者」となる?
ユーゴスラビアの分裂戦争でも、西側メディアはセルビアを悪魔に仕立て上げた。ところが、同様に残虐行為を繰り返したボスニアやクロアチアの戦争犯罪は不問とした。クロアチアはカソリック、セルビアは東方正教会だから、西側のメディアは東方正教会のことを嫌っているからでもある。
そういえば十五年ほど前、セルビアで東方正教会を見学し、教会の受付でアクセラリー替わりに十字架のネックレスを買おうとしたら、若い女性が厳かに「異教徒には売れない」と突っぱねられたことを急に思い出した。
中国の文革を「改革」とすり替えていた日本の「知性」とは、いかに低脳であったかも、最近分かってきたことで、当時の某新聞は「林彪は健在」と報じていた。
 本書は歴史の謎に挑む、読後感がどことなく爽やかな一書である。

waku

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