最近の問題作


宮崎正弘の最近の論文から
最近書いた記事、論文のなかでも注目を集めたものを紹介します。

中国反日暴動の裏側 (講演速記録)


 以下は05年4月26日に行われた「路の会」での宮崎の講演速記録の要旨をダイジェストしたものです。


米国亡命知識人のコメント

 アメリカに亡命した中国の知識人は05年四月の「反日暴動」を如何に分析したか。
「北京之春」を主宰する胡平が言う。
 「中国共産党は抗日戦争の主体でもなければ八カ国連合軍の一員でもなかった」。そして胡平は以下のように続けた。
 「強烈な劣等意識が過度の反日歴史改竄となっている。政治の暗黒、官僚の腐敗、困窮する農民、失業にあえぐ労働者、庶民は開発ブームにも乗れず、満足な家にも住めず、子供を学校にやることさえ出来ない。『反日』など一体、彼等となんの関係があるのか?」。
  次に呉国光(趙紫陽のブレインだった)の発言。
 「中国共産党が愛国を吹聴する資格などあろうか? マルクスは労働者に国境はない、と国際的共産主義を説いたように、共産党は外国製であり、しかも共産主義が中国においてすら破産した事実は明白である。これを庶民や青年の間に、特に強い民族的情緒や愛国主義なるものに訴えて誤魔化し、庶民を利用しようとしているが合理的でもない。彼らは共産党利益のために愛国とか民族の利益とかを利用できるものを手段化し、利用しているにすぎない。彼らの言う愛国は偽物である。選挙もなければ表現の自由ももたない中国の民衆はいずれ党の鼓吹する『愛国』にはなんらの価値がないことを知るべきである」。

反日デモの背景(1)

 07年四月から五月にかけて中国に吹き荒れた”反日デモ”の背景を簡単に振り返ってみます。
 江沢民が愛国教育を仕掛けた1993年から「反日教育」の過激化が始まったのですが、江沢民の父は江世俊で、その昔、江蘇省で日本の特務機関に協力をしていた。
 江沢民本人は上海交通大学出身と言っていますが、その直前まで南京の中央大学で日本語を専攻していた。戦後、「抗日分子」とされた伯父さんの江上青の養子になって、うまうまと出自を誤魔化した。

 江沢民が鼓吹した愛国教育キャンペーンにより、中国全土に203箇所、反日教育拠点を作った。
「反日記念館」の御三家が北京、瀋陽、南京にありますが、展示はと言えば、最初から「田中上奏文」で始まる。
 最初から贋物なんです。展示してある写真は、先般、東中野修道教授らが編纂された『南京大虐殺 証拠写真を検証する』(草思社)で全てが疑わしいとされた写真ばかりが並んでいます。それを使って子供らを教育しているということは非常に恐ろしいんですけれども、大体見に来ているのは強制動員の公務員です。警察、軍隊、みんな一日だけ、参観日を作って、それから高校生、小学生が遠足で来ている。
  参観風景を見ておりますと、みんなぺちゃくちゃお喋りばかり。まじめに展示を見ている人は殆どいないです。「このつまらない見学が終わったら、今日どこへ行って遊ぼうか」という話をしておりますので、どの程度に効果があるのかと非常に疑問です。
 ともかく反日なる記念館の写真展示内容そのものは、シオンの議定書もどき謀略構造になっている。

反日デモの背景(2)

 共産主義が限りなく行方不明になってから中国共産党が展開したのはナショナリズムの鼓吹。危険な小道具を持ち出してきて、これを梃子に政権の維持をやっている。
 自分達だけが正しくて、日本が降参しなくてはいけないというイメージを情報操作で作りだしている。
文革世代は今回の反日デモを完全に冷笑している。また若い人が、何かの政治的キャンペーンの犠牲になるのではないか、もう一回揺れ返しがあるのではないか、というような恐れを抱きながら、距離を二歩も三歩もおいて冷淡に反日デモを見ていた。
  二番目の特徴は奥の院の「権力抗争」が中軸にあって江沢民の「上海閥」と胡錦濤のいわば「共産主義青年団閥」との確執がまだ完全に終わっていない。
 デモに参加した若い人たち、愛国教育を受けた人たち。過去十三年間に反日教育を受けた世代とは二十五歳以下。かれらは日本が悪いという洗脳で頭の中が染まっているんですが、全体がそうかというと、おそらく大半の若い中国人はこういうことに興味がないという傾向もはっきりしている。
  少なくとも都会にいる中国の若者は、非常に多様化した価値観を持っている。それから中華風の伝統というものに対して、距離感がある。どちらかというと無国籍です。
 DINKs(ダブルインカム、ノーキッド)。結婚はするけれども子供は作らないという夫婦が上海、北京その他の都会部には多い。
 国家とか愛国とかはどうでもいい、自分が生きたいように生きればいいということを書いた小説『第三の路』がベストセラーになっております。最近、出現してきたのが「傍老族」。自分が老いてゆくのを傍観している。人生に対する積極性が何もないと、これはちょっと日本人と似ているんですけれど、こういう種族が出てきた。
 ついで日本なみの「ニート」です。中国には千九百もの公立大学があります。それからプライベート及び、カレッジ、資格がもらえるカレッジを含めて三千三百の大学があります。
もうひとつは文学の頽廃現象です。
日本文学はほぼ全部翻訳されて出ています。村上春樹、吉本ばなな、山田詠美、あらゆる文学が出ておりますが、日本文豪というコーナーで紹介されているのは、かの渡辺淳一先生。04年の6月に上海に渡辺さんがサイン会に行ったところ数百人が列を作った。
 若者達の特質は、「国を出たい」という静かな、しかし確かな動機がある。
  そういう雰囲気の中で「反日」というのは何かなと考えますと、今の若い人たちは直接日本軍のことを知っているわけでもないし、いわば教科書という仮想空間の中で、知育されている通りのことを模範解答で、学校で書いているだけ。日本に対する憎しみというのは、殆ど無い。

携帯電話の空間における表現の自由

 四億台以上の普及した携帯電話と一億台以上のインターネットが武器になって反日デモに動員された。それであれだけ若者が集まったという解説が幅を利かせておりますが、今のインターネットは完全に中国国家公安部中共版KGBの統制下にあります。毎日モニターしている公安が三万六千人、かれらが24時間モニターしている。
 インターネットカフェは営業許可を取らないと営業できない。許可が取れないところは閉鎖されます。インターネットカフェには防犯カメラが備えつけられており、一日に何回か公安が検査に来る。経営者はいろいろな誓約書を出さなくてはならないし、もうひとつは外国にアクセスすると必ず罰則規定があるのです。ですからインターネット時代に、海外にアクセスが出来ないインターネットなんていうのはLAN(ローカル・エリア・ネットワーク)である。
 他方、携帯電話こそが中国共産党にとって脅威です。
 携帯電話も公安が盗聴しておりますけれど盗聴が出来ない携帯がある。アメリカのようにNSA(国家安全局)があってキーワードを選んで、モニターするがもはや携帯電話の会話による伝達を制御することは不可能な状況になっている。
同じ時期に折江省で農民暴動が起きて、参加したのは5万人です。炭坑ストはしょっちゅうですが、ほかには麻薬ルートで犯罪者達が携帯電話を使っているのです。それから脱北支援組織も携帯電話を使っている。数年前、中南海で突如、二万人座り込みをしたのは「法輪功」でした。やはり携帯電話を使っていた。こういう風に見てまいりますと、インターネットは制御できるけれども、携帯電話は次の段階では火之神「プロメテウス」になり得るのではないか。

反日デモはいかにして演出されたか

 反日デモが如何に演出されたかという観点から経過を振り返ってみたいと思います。04年の「反日サッカー」以来、表面的には反日感情というのは沈静化していたが、完全に消えていたわけではありませんでした。
 05年3月21日に、アナン国連事務総長が日本の常任理事国入りを歓迎するという発言がありました。そして日本の教科書検定があり、扶桑社の教科書が合格するということがあり、そういうところから、書き込みが急増した。
 日本の国連常任理事国入りに反対署名を呼びかけたところ2200万人とか、3000万人とか集まってきたとか。書き込みの中には「日本にそんな資格はない」とか、「日本が常任理事国になれば必ず第三次世界大戦が起る」とか、こういう乱暴な意見が並んでいます。
 いわゆる「愛国ネット」で、一番大きいのは「中国民間保釣連合会」、これは尖閣諸島に上陸した過激派です。もう一つの大手は「愛国者同盟網」で、これは去年、日本の新幹線導入反対で騒ぎました。
 「国際先駆導報」という共産党の機関紙が誤報に基いてアサヒビール、三菱重工、いすゞ、味の素その他日本の企業を名指しで非難し、「つくる会」に資金援助しているというような記事が流され、アサヒビールに対する不買運動が起きた。しかし吉林省の長春だけで、他には広がらなかったんです。どうもライバルのビール会社がアサヒの排撃に使ったのではないか、というふうに思われる節もあります。
 3月下旬に共産党は各大学、職場にオルグを.派遣して、反日デモへの参加要請をしております。要するに当局が動員指示を出していたのです。
 たとえば上海の例ですが、集合場所は「人民英雄記念碑前」と「人民広場」に集合しなさい、集合時間午前八時と書いてある。コースは南京路へ向い、人民広場で合流し延安路から日本領事館へとなっています。
 延安路は東京の昭和通りみたいなクルマ専用道路、ほとんど人通りがない。
 周りにデパートも何にもない道です。本当は平行して走っている上海の銀座に匹敵する盛り場もある。そこには多国籍企業が山のようにあって、ここで暴動を起されると困る。その先には江沢民の豪邸がある。
 これを巧妙に迂回させて日本領事館に向っていくというコースの演出があるのです。
 注意事項には「飲料水など各自が用意すること、日本製品は携帯しないこと、貴重品も持参しないこと、排便をすませておくこと、そして、日本製のデジカメ、携帯、パソコン、ラジカセ、ウォークマンなどは誤解を与えてはいけないので携帯をするな。出席をとるので、筆記用具を持参しなさい。領事館前では投石はいけない、小泉のポスターや国旗を焼くために、ライターなどを持参しなさい。シュプレヒコールは「日本製品を買うな」「歴史教科書改竄抗議」「日本製品排斥、国産品愛用」「日本の国連常任理事国参加反対」「魚釣島を取戻そう」など決まっているんです。それ以上のことは言うなという意味です。
 さらに細心の注意事項が追加で添付されておりまして、先ず一番「日本の右翼を刺戟するような破壊活動を慎みなさい」「付近の日本商店やレストランに投石するな」。「国旗を焼くときは自分の衣服に燃え移らないように気をつけよう」「警備の警察の指示にしたがいなさい」「上海の国際都市のイメージを保持するため、リーダーの指示に従って整然とデモ行進をしなさい」「以上を踏まえて広く友人に参加を呼びかけてください」というような指示書が『大紀元』(4月20日付け)によって暴露された。
 4月10日、広州の領事館(花園ホテルのなかにある)や付近の日本料亭が襲撃を受けた。
 深センでは「ジャスコ」に投石被害。それから蘇州に広がった。
 北京の場合は上海と比べるとかなり整然としていた。勿論、暴力行為はありましたけれど、大使館前にはレンガがいつの間にか積み上げられて、生卵がケースで用意されて、帰りのバスも用意されて、北京では相当の失業者が加わっているというようなことが確認されております。
 アモイでのデモを友人に確認したところ、やはり1万人くらいが参加して、自動車を二台燃やしたということです。
 東莞では日本企業が二社、ストライキに遭遇しております。それから広州、珠海、南寧(江西省チワン自治区ですが)。李肇星外務大臣が「日本側に責任がある。だから謝罪しない」と言明、一方では町村外務大臣が謝罪をしたという一方的な報道を中国はした。
 中国が勝ったイメージを捏造したわけですね。

何を”反日”ですり替えようとしたのか?

 中国は「反日」で何をすり替えようとしたか?
 社会不安、農民暴動、ストライキ、炭坑暴動、失業対策の無策・・・・。
 国民がじつは一番敵視しているのは、中国共産党であって、亡命知識人達が指摘したように一般の民衆にとって「日本」は関係がない。
 農村対策の遅れ、貧困地域のそのままの遅れ、都市戸籍の問題その他。都市へ出稼ぎに行って働くわけですが、戸籍の問題があって、月に例えば千元くれるという約束があって行ってもあんたは田舎の戸籍だから、賃金は半分だとか。スシ詰めの部屋に入れられ、場合によって頻繁に給与の不払い、現場監督が給料の持ち逃げをやる。だからおとなしい農民でも我慢できなくなって暴動がおきる。
 さらに深刻な問題は、開発弊害。たとえば三峡ダムで立ち退いた農民が公式的には117万人とも140万人とも言われていますが、立ち退かされた多くには職もなければ移転した先に家も建てられない。
 そのうち20万人くらがい流れこんだのが、重慶の萬州区というスラムだった。
 04年10月18日に、この重慶で5万人の暴動が起きて、武装人民警察の発砲で数人が死んだ。同年10月27日には四川省漢源県で、共産党始まって以来という十五万人が参加した暴動がおきた。
 これもダムの立ち退きを要求されている農民に補償金が1平米あたり日本円で数十円。これは死ぬか生きるかの問題で、それで農民達が立ち上がって、地方幹部に抗議をしたところ軍隊が導入されたのです。こういうことは、しょっちゅう起きている。
 環境問題でもデモが起きています。
 北京の反日デモのその日に折江省の東陽で化学工場、染物工場、製薬、化学肥料、農薬などの工場が廃液を全部垂れ流して操業していたため、たとえば妊婦が奇形児を産むとか、原因不明の病気になる。癌の発生率が異常に高い状況に陥った。
 近くの農民が自警団を組織して、原料を搬入するトラックをストップさせる騒ぎに発展し、農民が封鎖線をはったため警官隊が三千人も導入された。
 とにかくあちこちで本当の農民一揆を越したような状況が進展しています。
 この矛盾をすり替える手段として「反日」を演出してきたけれども、いよいよ「反日」でもすり替えが効かなくなってきた。

経済繁栄も嘘の固まり

 中国の銀行が抱える天文学的な不良債権、これを隠していますが、おおよそ日本円で90兆円くらいの不良債権がある。国有4大銀行だけの数字です(中国銀行、中国建設銀行、中国工商銀行、中国農業銀行)。
 対GDP比で中国の不良債権は50パーセントあるだろうと米国などの多くの金融機関のシンクタンクが指摘していました。
 不良債権処理に当たっては、日本と同様に債権買取会社を作って、そこに移管させる、帳簿上そういう操作をやってきました。
 また中国はさかんに赤字国債を出しています。赤字国債と不良債権と全部合わせると、西側の専門シンクタンクが計算したところGDPの140パーセントぐらいになっているはずだという。
 中国は大掛かりな詐欺を平気でやります。中国銀行と中国建設銀行を香港とニューヨークとシンガポールあたりで上場し、それで1千億ドルそこで集めて穴埋めをしようとした。そうしたところ事前審査でニューヨークは受付けられない、ということにあり、香港あたりに、上場を移行する。
 一方、赤字を補填する為に、外貨準備高から03年に450億ドル、04年には追加で700億ドルを外貨準備から入れた。

 あれだけ愛国を言っている党幹部の汚職と腐敗が全く絶えないという問題があります。非常に深刻です。党の最高幹部はどれだけの汚職をやってもつかまりませんけれども地方幹部がつかまっている。
 社会的経済現象のみならず、基礎的な問題で環境汚染と水不足が深刻で、特に水に至っては四百数十の都市で飲料水がもはや飲めない。
 辛うじて北京、天津あたりの水は飲めるけれども、ミネラルウォーターを家庭では使いなさいという通達が出ている。
 黄河の下流流域では汚染された水を飲もうにも、水が来ていない。断水しておりますから、そうすると水の汚染と水不足により、とくに人間は水がないと生きていけませんから、過去十年間の改革開放のなかで、中国は農村から都市部に1億4千万人が移動したわけですが、今度は水不足で、就職ではなくて、水不足が原因で、長江方面に、向う5年か10年の間に1億数千万の民族移動が起る可能性があるのではないか。
 胡錦濤政権はこの状況は一刻も早く静めなければならない状況に追いこまれた。
 これまで共産党は自分達の悪政への抗議を回避する為に、反日を利用していたんですけれど、その反日が逆のブーメランとして、跳ね返ってきた。それが自分達に歯向かおうとしている。
 その鋭い刃を回避するために、こんどは一転して反日デモを禁止し、活動家の拘束をし始める。そしてニコニコを薄ら笑いを浮かべて日本に近寄る。
 歴史のイロニーというべきでしょう。


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