著者近況
首相官邸前に落書き。
首相官邸前に落書き。

台湾総統選挙取材日記(下)

(某月某日)投票日。朝から前日と同じ作業、新聞全紙を切り抜き、テレビニュースをつけっぱなしのまま、朝食はコンビニで買ってきたおにぎり、お茶で掻き込む。電話数カ所。インタビューも電話ですませる人がある。
 昼の約束のあるシェラトンホテルへ。同ホテルは高級なのに昼のバイキングが超満員。いやはや台湾経済は意外と繁栄しているようだ。
 ロビィで偶然、取材にきているNHKの林純一さんと。「これから張超英さんの奥さんと会食ですが、なんなら一緒に行きますか?」「それは是非」。超英さんは東京で新聞広報部長十年余。NYに引き上げてからも、よくNYであった。四年前に急逝、その遺稿集の日本語版は小生が斡旋し、チャイナウォッチャーの仲間数人が手分けして翻訳し、あまつさえ東京で未亡人と息子を呼んでの出版記念会も開催したという関係。
 ところでロビィで三十分が経過した。「ん? 場所まちがえたかナ」。林さんの部屋から未亡人の携帯へ電話。待ち合わせ場所は国賓ホテルに変更されていた。慌ててタクシーで。
 国賓ホテルの十二階は四川料理で有名である。ただし料金もそれなりに。この日の同席者は共同通信のSさん夫妻。フォーブス誌上海支局長(アメリカ人)、台湾人ジャーナリストに小生、林さん、Wさん。そしてホストは張超英夫人と司馬文武氏。司馬さんは、知る人ぞ知る台湾を代表するコラムニスト。陳水扁政権初期には国家安全担当補佐官を務め、「台湾のキッシンジャー」とも言われた。結局、この会は英語、中国語、日本語のチャンポン国際会議(?)となる。
 すこし酒もはいって、酔い覚ましのため市内のあちこちを散歩がてら面白い光景を写真におさめた。自転車に蔡英文支援の旗竿を林立させ、着込んだジャケットも民進党という熱狂的民進党支援者の老人。かたや馬のマーク、ジャケットに馬の似顔絵、手袋から旗まで馬英九の顔とデザインで満艦飾のおばはん。重慶南路の書店で捜し物の書籍をさがしたが、三軒まわっても見つからず時間切れ。
 大きな発見は大陸のベストセラーと台湾のそれが違うこと。文化価値の探求という意味では台湾の翻訳文かははるかに質が高い。中国大陸でベストセラー作家の渡辺淳一も東野圭吾も台湾では相手にされていないことも面白い現象と思った。
 五時過ぎに台湾独立健康連盟オフィスへ。ここで開票速報を見ながら感想を羅福全前大使や許世偕大使からもらおうと思っていたのだが、はやばやと民進党の敗色が濃く、通夜のような静けさ。
 オフィスには大きな黄昭堂(前主席)の遺影がかかっていて、その笑顔が印象的だった。日本李登輝友の会の訪台団の面々が三十人ほど。東京からは『台湾独立運動私記』を書いた宗像隆幸夫妻も来ていた。
 馬当確の空気が濃厚になって、小生はむしろ国民党の勝利集会のほうへタクシーで急ぐ。おっと国民党本部前の道路が一キロ手前から進入禁止になっている。おりから雨が本降り。集会にはわずか二千名も集まっていない。勝利したのに、この寂しい風情はなんだろう?奇妙な話ではないか、と思った。
 取材後、六福飯店に立ち寄る。K氏が泊まっているはずだから部屋にいたら飲む算段。あいにく不在。ひとりでスナックへ。そこへ知人のSさんから電話。「やけ酒を飲んでいて、合流できない」と言う。電話で林さんを誘うと、「原稿書き。明日早朝に帰国し、番組です」と断わられる。ほか、新聞記者全員は原稿書きでそれどころではない。
 ならばいい加減に引き上げようとしたところへ日本人客がふたり。結局、ホテルの部屋に戻ったのは十一時を回っている。風呂も浴びずに寝た。


熱烈な祭英文支援者。
熱烈な馬支援者ら。
熱烈な祭英文支援者。 熱烈な馬支援者ら。

(某月某日)早朝からテレビは馬勝利、蔡敗北の特別番組だが、同時に行われた立法委員の結果の分析が興味深い。新聞全紙、かなり時間をかけてスクラップ。時計をみると、もう十時半である。いそいで荷物を梱包しホテルをでた。タクシーが掴まらず地下鉄をのりついで南京東路の兄弟飯店へ。
 この日は「老台北」と『台湾紀行』で司馬遼太郎が名付けた、かの蔡昆燦さんが主宰の昼飯会。台湾側からは李登輝友の会、民進党シンクタンク、団結連盟幹部に大學教授等ら十数名。
 主賓は選挙監視団にやってきた桜井よしこ女史ということだったが、彼女は欠席。小生のとなりは産経の河崎上海支局長。おなじく産経のT論説委員。離れた席に吉村支局長。ここでまた門田さんと再会。日本李登輝友の会のメンバーは団長の梅原さんが挨拶しているうちに東京新聞の迫田さんも遅着した。
 入れ違いにホスト役の蔡さん、次の日本人の会合で講演のため早退。なんとも落ち着かないあわただしい会だった。しかし雑談のなかに収穫多く。時間となって、ふたたび荷物をごろごろ引き弦りながら地下鉄で松山空港へ(ホテルから二つ目なのでタクシーが嫌がるからだが)。
 空港には国際線ロビィにバアもなく、免税店も品揃えが貧弱で、待合い室で簡単なメモを綴っているうちに搭乗時間。帰りの飛行機もビール二缶飲んだあと、ドンという衝撃で目が覚めると羽田だった。

(後記) というわけで台湾選挙の実際の論評は『正論』3月号、2月1日発売、ならびに『エルネオス』二月号、1月31日発行に掲載します


馬勝利集会も人手が少ない
投票の帰省する長い列(長距離バスターミナル)
馬勝利集会も人手が少ない 投票の帰省する長い列(長距離バスターミナル)

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