不動産、商品市況、株高騰のからくり
六年半にわたって低迷し続けた中国株が異常な高騰に転じたのは06年秋からだった。前年からの国有銀行の香港上場の成功が発火点となった。
改革開放がようやく軌道に乗りかけた1990年に深せんで株式市場が開設された。
この頃、中国で株式を買う人は「株式とはいったい何か?」を問われても誰もまともに答えられなかった。
理論なんぞそっちのけ、なんとしても株券を手に入れよう、株券さえ手に入れば儲かると信じて初日には30万人が深せん証券取引所をとり囲んだ。
一種のお笑い、「カジノ市場」という命名がふさわしいほどだった(脱線だがマカオのカジノ売り上げは昨年、本場ラスベガスを抜いて69億ドルを記録している)。
中国各地の証券会社のカウンターでの日常風景はつぎのごとし。
「この銘柄の一株あたりの資産倍率は?」 と尋ねても証券マンが答えられない。株価形成の趣きはと言えば理論でもなく、そもそも企業情報の不透明さが顕著である。
90年代央から国有企業の株公開が次々と始まるが、出鱈目な情報に基づくインサイダー取引が実態とわかるや、多くの投資家は手をひいた。引き潮の如く株価は暴落した。
当時の香港の雑誌には「李鵬一家が黒幕」「インサイダー取引の主役は温家宝首相夫人」とかの内幕情報が溢れた。なにしろ証券会社で推薦する銘柄はといえば、「この企業は党幹部のだれそれが事実上のオーナー」「この会社は誰それと深いコネクション」「だれそれのダミーだから儲かること請け合い」というセールス・トーク。
現在も同じ情報が市場を駆けめぐっている。直近の香港誌『開放』(07年3月号)によれば、「温家宝首相の息子が平安保険の4000万株主」、「曾慶紅副主席の息子は北京で豪邸不動産投資に数百億元の公金を転用か」などの見出しが踊っている。
05年までに証券会社が陸続として倒産した。老舗「大鵬証券」も大手「南方証券」も。投資家の悲劇もあちこちで聞かれた。
株が低迷していた六年間、それでは人々を魅了した投資対象とは何だったか?
投資家らは「不動産」と「商品」(金、プラチナ、建材など)の投機に向かった。
不動産投機ブームはいまも衰えてはいないが、半分は実需があるからで豪華マンションなどの投機対象はあらかたが手じまいされている。
夜、付近を通れば幽霊屋敷のように明かりがついていない。投機用だな、とすぐに理解できる。昨年秋から上海の不動産は下落傾向、北京はオリンピックを控え、まだブームに湧くが、投資家の多くは”逃げの態勢”だ。
不動産投機を煽ったのは、「中国のユダヤ人」といわれる温州商人の投機グループで北京、上海、広州の大型物件を集中して狙い、高値をつけるや売り逃げた。彼らの資金は地下銀行、なにしろ金利14%の闇資金でも不動産が年率17%平均で上昇してきたのだから、元手はちゃんととれている。
さらに国有銀行などがダミー会社を経由して不動産投資に手を染めた。昨秋あたりまで「不動産を買わないやつは馬鹿だ」とまで言われた。
商品にも投機マネーが乱舞した。
05年から06年にかけて金(ゴールド)が空前の高騰(20年ぶり)、石炭は四倍、そして石油価格が世界的に暴騰した。一バーレルが空前の80ドルを突破した。すべてが中国の商品市況の動きと相関関係にある。
中国人はもともとが博打好き、あっというまにニッケル、マンガン、鉄鉱石までが80%、90%と上昇し、ついには米国ミネソタ州の山奥の鉄鉱石現場まで中国企業によって買い占められた。ついでに「ペトロカザフ」(カナダ企業)など石油関連企業買収に投機のカネが向かった。
石炭を例に取ると、世界最大の露天掘りで有名な撫順炭坑など現場で働く中国人炭坑夫は300万人。落盤事故などで毎年五千人を越える犠牲がでるが、安全管理にお構いなく儲かると聞けば、温州商人が駆けつけて闇炭坑でも操業をつづけるのだ。山西省の炭坑の四割が、このえげつなき温州資本である。
こうして不動産投機とあいまってセメントや鉄鋼、ついにクレーン、ブルドーザまでも投機の対象になった。
この狂乱のカネが株式市場へ乱入してきたのだ。
|